あさがやハウス

●設計事例の所在地: 
東京都杉並区
●面積(坪): 
70㎡(21坪)
●建物の種類(大分類): 
住宅関連
●メインの画像: 
●メイン画像の説明文: 

2階にある洋室から、2.5階の洋室および天井部分を見た写真。屋根は上り垂木工法で、その垂木をそのまま見せています。そして垂木間に発砲ウレタンの断熱材160mmが充填してあります。天井材は白ラワンの突板です。床はメープルの無垢フローリングで、表面にはオスモ(自然素材塗料)のクリアが塗られています。壁は調湿効果のある漆喰塗で、壁面も発砲ウレタンの断熱材が充填してあります。右側の窓はアルミサッシで窓から見えている赤色の部分が中庭に廻した2重壁の外側の壁です。

建てる前に依頼者が悩んでいた事・ご希望: 

「都心の住宅地に引っ越すことになり、色々、土地や建売住宅を見て回りました。土地付き5000万円もする建売住宅の中を観させてもらって驚きました。こんなにも、中は暗いのか? こんなにも、閉塞感があるのか? これが現実かぁ? と落胆しました。この事があった後、住宅地を歩いていて気づいたのです。どの家もレースだけど、カーテンが閉まっている。当たり前と言えば、当たり前、どの家も道路に面して窓があるから、プライバシーなどあったものではない。カーテンを閉めたくなる気持ちは、わかる。それでこの間見た家のようになるのか・・・・?」
というようなエピソードをお話しになりながら、以下のような条件を提示されました。
①21坪の土地に夫婦二人が住む家(将来は子供もできるかもしれない。)、②建物の予算1500万円 ③室内の明るさとプライバシー確保。④ペット(犬と猫)を飼っているので、特に犬の面倒が見やすい家。

依頼者があなたに依頼した決め手: 

ここに掲載するために、あらためてお施主様の奥様にインタビューしてきました。その内容を、すこし要約して、ここに掲載いたします。私自身の狭小住宅に対する考え方は、今も変わらず同じなですが、そのことを奥様の方がくみ取っていただいていたようです。
「予算が全然無い、土地がとても狭い。という条件のなかで家づくりを考えていたので、何を妥協するか、ということばかり毎日考えていました。最初にスケッチを見させていただいた時、遠藤さんの説明に妙に合点がいったのが直接の決め手です。「狭小住宅では建物の各部を、「兼用」という見方でみないと、思った通りの住宅ができません。」と言われました。確かに、今までの考え方で考えると「妥協」になってしまうけど、考え方を変えれば、それは妥協ではなく「兼用」ということになるのか・・・?、ということで、なんとなく自分自身納得がいき、遠藤さんに依頼することにしました。」

●建物の紹介文(依頼者のお悩み・ご希望を叶えるために工夫した点・採用した建材など): 

お客様のご要望のほかに、敷地面積が21坪(70㎡)、建ぺい率50%、容積率100%、東京都の第1種高度斜線という法的な条件がありました。
建ぺい率50%というところに着目しました。言い換えると、土地の半分は建てられないのです。車の駐車スペースを引いても、結構残ります。四角形を二つに分割し、その分割した2つの四角形を雁行にずらすことでL字型に囲まれた部分が2か所生まれます。ここを中庭のような屋外スペースとする平面形にしました。窓をすべてここに面して設ければ、光も入ってくるし、プライバシーもある程度確保されます。さらに、この2つの中庭の外側部分もすべて外壁を廻して2重壁とし、床にはウッドデッキを貼って、内部の床とほぼ同面にすることで、内部空間の延長のような半内部空間となり、明るさとプライバシー確保の双方を実現しました。
内部は、雁行配置した四角形の合わさっている部分に階段を配置し、スキップフロアとしました。床のレベル差と階段という障害物で北の領域と南の領域を分節し、気配は感じられるけれども、別々の部屋のように使えるという、階段を壁と「兼用」するという考え方にしました。
スキップフロアにすると家全体がワンルームになります。言い換えると家全体が大きな吹き抜け空間ということです。通常は、冬場相当に寒くなります。そこで、高気密・高断熱仕様にし、サッシは木製サッシを入れました。断熱性能の指標である熱損失係数(Q値)を計算したところ、2.034w/㎡・Kでした。東北地方から北関東にかけての地域の仕様になっています。気密性の指標であるC値については業者に測定していただき、0.9㎠/㎡でした。北海道地域に要求される気密性を上回る値となりました。熱源の問題があり、若干、冬場1階が寒く、上階が温かいということがありますが、エアコン1台で家全体の冷暖房をまかなえています。
玄関は「土間」と呼んでいますが、廊下状空間の床にタイルを貼って、下足、上足の両方が使えるようにしています。ここに流しが設けられているので、犬の散歩から帰ってきたときに、犬の足を洗ったり、犬のフンをトイレに流したりするのは、下足のままおこなえるようになっています。
工事業者には延べ20件ほど見積もりを依頼しましたが、大半が概算の段階で断られました。5社から見積もりが出てきましたが、軒並み2500万円前後で、坪単価にすると約120万円/坪でした。その中で1社だけ1700万円で出てきたところがあります。ハウスメーカーでした。施工精度に難がありますが、予算に合わせるにはここしかなく、見積もり調整とお客様には予算の増額をお願いして1650万円で工事契約をしました。大型の木製サッシを数か所入れていますが、これを、1650万円で実現できたのは、ハウスメーカー故のことでした。ハウスメーカーは、自社のイメージダウンになることは非常に神経質なようで、重要な瑕疵につながる雨漏り、排水、躯体については慎重に工事をしてくれました。しかし細かいディテールになると張りぼて工事で、なかなか建築家のイメージ通りにはいきませんでした。

依頼者の声: 

他にもいくつか感想をいただいていますが、私が設計中意図していたことに対する反応に近いものをピックアップしてご紹介いたします。うまくいったところもあるけど、ちょっと失敗してしまって、お客様にご迷惑をかけてしまっている部分もあります。
「私たち夫婦が普通に考えている家のイメージを全部覆されました。階段が家の真ん中。玄関は玄関らしくない土足の廊下。そしてスキップフロアのワンルーム。」
「引き渡し直前に、出来上がった我が家の室内を見て驚きました。とても明るい! どこか郊外の家かと思いました。見学に行った建売住宅の記憶がずーっと残っていて、その感覚でイメージしていたので、それとは、比べ物にならないほどの明るさだったので驚きました。」
「予算の都合で、床暖房を入れられなかった。やっぱり、冬の1階は寒いかな。それでも、エアコン1台で全室の暖房をまかなっているのだから、贅沢は言えないか。」

その他の画像: 

まだ、外構工事が完全に終わっていないときの前面道路から見た写真です。外壁はガルバリウム鋼板の波板で、ワインレッドのような赤色です。写真右側が玄関ポーチと称している半内部空間です。道路からの視線が直接家の中に入ってこないよう、窓の位置と、2重壁に開けられた開口の位置とはズラしてあります。ただ、2重壁に開けた開口が大きすぎて、思ったほど障壁にはなっておらず、これは失敗でした。玄関ポーチの入り口には、大型の網戸が取り付けられています。玄関までにワンクッションあり、直接玄関戸が見えないようにしています。セールスマンなどが来た時は、この網戸越しに話ができるので、防犯性にも考慮してあります。

玄関ポーチでくつろぐ愛犬のルッコラちゃんです。玄関ポーチには屋根がなく青天井です。部分が半内部空間であることが良くわかる写真です。

ダイニングから中庭を見た様子です。冬は午前中に南東から、春から夏にかけては午後に南西から光が差し込んできます。ある程度、プライバシーが確保されているので、窓を全開にして食事することもできます。

ダイニングから見た土間玄関の部分の写真です。写真右奥は1.5階のリビングで、リビングの下は床下収納になっています。写真右下の暗くなていいるところは、犬と猫のトイレスペースになっています。この部分の右側(写真には写っていません)が、流しになっています。

1階の土間の続きにあるダイニング・キッチンです。引っ越されてから4年ほど経った頃の写真です。左側の大きな掃き出し窓が木製サッシで、その外側が中庭と称している、半内部の空間です。床にウッドデッキを貼っているので、内部のフローリングがそのまま外につながっているように感じられます。

1.5階に設けられたリビングスペースから2階の洋間を見た様子の写真です。右側は1階の土間玄関部分です。右奥にはキッチンが少し見えます。正面の階段下に流しが設けられています。

引っ越されて、ある程度荷物の整理ができた頃に撮らせていただいたリビングの様子です。ソファーの上には作り付けの吊り戸棚(本棚)が設けてあります。本棚の下には、道路に面した(北面)唯一の窓が設けてあります。

設計者

ユーザー アトリエエンドウ一級建築士事務所 遠藤義則 の写真
オフライン
Last seen: 1年 6ヶ月 前
登録日: 2019-05-10 11:56